『最強のふたり』をめぐる状況
最近毎週のようにシネコンに行っていたので、そこでこの映画の予告篇を何度も観ていた。
その予告篇を何度も観ていると、全然面白くなさそうなので全く観に行く気がしなかった。
予告篇は、まるで「感動の実話を映画化した笑わせて泣かせるハリウッド映画」のようにしか見えなかったからである。
内容も、近年のメジャー映画の予告篇の悪習の典型で「どんな話か物語の要点を説明してまるで観たかのような気分にさせる」というもの。(近年のメジャー映画の予告篇の問題点については、いずれ項目立てをして書きます)
予告篇もベタなら邦題もベタ。原題は「アンタッチャブル」で、せめて「危険なふたり」とか「悩める男たち」とかもう少し考えてほしいもの。
公開が近づいてくると、冒頭にEarth,wind&Fire 'September' がムリヤリ追加されたりして、妙な違和感があった。
しかし、評価もいいようだしとりあえず観ておくことにした。
はたして『最強のふたり』はいい映画だった。
しかし「あなたの生涯のベスト」はおおげさすぎる。宣伝のインフレにもほどがある。
ちょっといい話として(ひとによっては)心に残る映画、というところだろう。
この映画は、ふつうならば、ミニシアターでかかる種類の作品である。
大阪でいえば、梅田ガーデンシネマでかかるような作品である。
こういう映画館でかかる作品は総じてよい作品が多い。
『最強のふたり』クラスなら「ミニシアターにおいては」標準程度の作品だと思う。
おそらく本国フランスをはじめヨーロッパ各国でヒットしたことで、日本でのヒットも期待できると踏んだシネコン系配給会社が、カネにモノを言わせて日本での上映権を買ったのだろう。たぶん単館系の配給会社より1桁多い金額で。
で、この映画、初日から大変ヒットしているという。
しかも、観客の観賞後満足度が非常に高いという。
これを知って、なぜだろうと考えた。
初日からヒットしたということは口コミではなく純粋に宣伝効果があったということだ。
TVスポット広告も打っていたし、あのベタな予告篇も「シネコン観客」には受けたということだろう。
そして、満足度が高い、というのは、純粋に作品の良さを理解したということ。
さらにいえば、「ふだんシネコン映画(メジャーな邦画かハリウッド映画)しか観ない客層が、単館系映画を「初めて」観て、その良さに驚いた、ということだと思う。
ふだん単館系の映画をよく観ている人間からすると複雑な気持ちもするが、今回のことは以下のことを現している。
1.シネコン観客には、ベタな邦題、ベタな予告篇がマッチする。
2.シネコン観客には、単館系映画もウケる可能性がある。
この1の方は「予告篇問題」の回に考察を譲るとして、注目したいのは2。
作品によっては、シネコン観客にも単館系映画が受け入れられるということが判るとどういうことになるか。
3.シネコン観客が単館系映画館に流れる可能性がある。(その結果、単館系が盛り返す)
ということが希望として考えられる。しかし一方で暗い可能性もある。
4.シネコンが、ますます単館系映画の上映権を買いあさる。(その結果、単館系が消滅する)
このあまりに暗い可能性は、残念ながら3よりも高いと言わざるを得ない。
観客は新たに小劇場を探して観に行くことをするより、いつもの大きなシネコンで色んな映画を上映することを希望する層の方が多いだろうことは想像に難くないからである。
『最強のふたり』のヒットを受けて、日本のメジャー配給会社は、よからぬことを考えないで頂きたい。
上映権を高騰させるようなことは、本当にやめて頂きたい。それが今の切実な願いである。
(2012年9月6日)