あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

どうしてミニシアターの支配人は女性ばかりなのか?

 最初にお断りしておきますが、以下は筆者による全くの推測に基づくものであり、実際の関係者からの取材によるものではありません。
 (もしこれが筆者の推測通りであれば、堂々とこんなことは書けないと思います。無責任者だから勝手なことが書けるということです)

 さて、ミニシアターによく行く映画好きであれば、映画館のスタッフに女性が多いことはもはや当然の現象であり、今さらそれを「なぜ?」と思ったりもしない、というのが実情でありましょう。

 しかしながら、近年急速に女性率が高まっており、殊に独立系ミニシアターの支配人のほとんどが女性、映画好き的に言えば「30代前後の若い女子」である、ということに気づいている方も多いことでしょう。

 実際のところ男性の支配人もおられる訳ですが(と言うと、パッと思い浮かぶのは、ナナゲイの松村さん・・そういえば誰かに雰囲気が似てるなあ、と思ったら、テリー伊藤さんだといま気づきました。脱線御免)、「支配人が代替わりすると女性」の傾向が、ここ数年強まっているように感じられます。

 なぜ、ミニシアターの支配人は女性ばかりなのか?

 いやね、これが「男がだらしないから」という理由であれば、話は簡単な訳です。(男性の代表というのはおこがましいですが、同じ男性の一人として)女性の皆様に手をついてお詫びしてもいいくらいです。ごめんね、僕が悪かった。

 概して「繊細で、聡明で、柔軟な」女性に対して、概して「無神経で、うろんで、思い込みの激しい」男性が、かなうはずがない。

 いや、でも、話はそう単純なことでもないと思うのです。

 最近、不景気ですよね。いやいや、ずっと不景気ですけど、非正規労働者とかワーキングプアの問題がもはや常態化していますよね。

 ということは、ミニシアター、特に独立系なんて、スタッフはほとんどボランティアかそれに近い勢いでしょう。

 形式上の社員は2、3人で、あとは最低限の時給のアルバイト、さらには無給もしくは「上映映画を観ることが報酬代わり」という実質的ボランティアも多いと思うのです。社員だって、いくら働いても残業代なんて出るはずもない。特に支配人は雑用含め仕事が多く夜遅くまで働いても給与は同じでしょう。

 ということはですね。ミニシアターのスタッフ、ましてや支配人というのは「好きだから(苦労も厭わず)やれる」ということになります。

 だったら、男性でもいいのでは。そう思いますよね。実際スタッフには男性もおられますしね。

 ところが、です。いくら好きだとしても、一般的に30代くらいの男性は、「毎晩夜遅くまで労働、土日は出勤、休暇は不定の平日1日程度。給与は新入社員並み。昇給なし。残業代なし。社会保障?」というような仕事を選んだとして、結婚して子どもを持つ大黒柱としての生活が可能か、ということを考えるだろうと思う訳です。

 いや、これについても「女性だって同じだろ」という意見はまったくその通りなのです。その通りなんですが、この国における「世帯主、扶養者は男」という意識はまだまだ根強いようです。(と、いうか不況においてほどその傾向が強まっているように思います)

 なので、別に、女性が家庭の主な収入を得て、男性が「好きだし、やりがいもあるし、人に喜ばれる仕事だけど収入は少ない」というのでも問題ないはずなのですが、実際は逆のケースがほとんどなのではないか、と推測します。(結婚していない女性の場合は、一人で清貧に耐えて仕事をするか、親元で衣食住を得て仕事をするというケースが多いだろうと思います)

 つまり「やりがいはあるが経済的に報われない仕事」という「現実」の前に「大黒柱たらんとする勇ましき男たち」(※筆者はじめ多くの熱心な映画好きはこれに非ず)は、それを選択肢から外し、「大黒柱たらんとする思い込みが何らない女性たち」が、ミニシアター支配人をはじめとする「労多く経済的に厳しい仕事」を選ぶ、ということなのでしょう。

 と、ここまで書いて、「大黒柱たらんとする勇ましき男たち」なんて書いたけど、結局そんなのは「男たるもの自明的にそうでならなければならない、という単なる思い込み」にすぎないのであって、そんなくだらない思い込みは泥の河に捨ててしまえ、と思ってしまうんですが。そんな「大黒柱として何でもいいからいっぱい儲けて、妻を養い、何人も子供を作る」ことをせっせと人生の目標にしても、喜ぶのは「税金と子どもが増えて(富国強兵ですね)ウハウハのお国」だけです。

 結局「(くだらないプライドにしがみついている)男がだらしない」という当初の話に戻ってしまいました。ごめんなさい。

 独立系ミニシアターのスタッフ、更には支配人になるためには、「映画が好きである」「人が好きである」「清貧に耐えられる」「自分の時間が少ないことに耐えられる」「映画の仕事のために映画が観られないことに耐えられる」「健康で体力・持久力がある」ことが重要であるのでは、と思います。年齢的に若い人が増えてきているのは特に最後の要素が大きいとも思います。ミニシアター関係者の皆様には、くれぐれも身体にだけはお気をつけ頂きたい、と強く思います。ご自愛下さいませ。

 (2014年7月17日脱稿/7月24日発表)