あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

「ひなぎく女子」を捕まえる27の方法

 えーと、タイトルの数字はアレです。水増しです。これはあくまで2、3の提案なので、残り20幾つかの分は読んだ方々で考えてみて下さいね。

 さて、最近上映された映画『ひなぎく』において、各劇場で、それまでの「映画女子」とは異なる種類の若い女性が多く劇場に駆けつけた、という現象がありました。実際、私も何度か劇場で目撃もしました。明らかにそれまでの客層とは違う人々でした。それは特定の劇場だけではなく関西、そして上映されたところに関しては全国的な現象ではなかったかと推測しています。(ただし東京に関しては、以前からそういう層はいた可能性があるのでことさら珍しい現象でもなかったのかもしれません)

 近年「映画(館)ファンの高齢化」という厳しい状況があります。もともと熱心な若い映画(館)ファン層があまり増えず、以前からの映画(館)ファンがそのまま高齢化していくという現象に加え、(これは以前から何度か書いていますが、「午前十時の映画祭」などの影響により)「シニアが安価で楽しく文化的な娯楽として映画(館)を再発見した」という近年の状況もあり、ここ数年は1年当り1歳以上の高齢化が進んでいるのではないか、とも思っています。

 これは特に名画系の映画館にて顕著な現象で、例えば年間上映総本数が日本最大級を誇る大阪の独立系ミニシアターNでは、主力の「昭和30年代前後を中心とした邦画の特集上映」においては「シニア男性」が圧倒的多数を占めています。(この状況では4、50代ですら最早「若い部類」に入ってしまう状態です)

 一般的にチェーン系ミニシアターにおける観客層は相対的に女性の方がかなり多いはずなのですが、それらは「新作・洋画」が中心であり、「名作・邦画」となると、かなり客層に違いが見られます。

 では名画系のミニシアターではどうすれば若い人、特に女性に来てもらえるか、というのを考えるのがこの稿の本題です。

 そこで冒頭の「ひなぎく女子」の話になります。そもそも「映画女子」ではない「ひなぎく女子」とはどういう層でしょうか。
 普段は名画系映画を観ないが「オシャレで話題になっている映画」に敏感な彼女たちは「ファッション志向の高い文科系女子」、つまりわかりやすく言ってしまえば「サブカル女子」と呼んでいいのではと思います。ちなみに「ファッション志向が低い文科系女子」は「オタク(映画)女子」です。

 ここで余談ですが、そもそも関西においては「サブカル少年・少女」は「層として認知できる程の数としての絶対数が少ない」ため、「存在していない/いなかった」と私は思っています。ただ、現状としては上記の層を「サブカル女子」として呼ぶことは可能だと思います。ただし「サブカル男子」は「オタク(映画)男子」とほとんど見分けがつかないため統合状態となっていると考えています。(絶対数の異なる東京の場合はまた状況が違うでしょう)

 では「サブカル女子」を劇場に呼ぶにはどうしたらいいでしょうか。以下にいくつか書いてみます。


 1)「サブカル女子」好みの映画を上映する

 「なんだ、そんなの当たり前じゃないか」と思われるでしょうが、これがなかなか難しいのです。
 まず、「サブカル女子」は洋画志向です。例えば90年代における『黒い十人の女』という例外もありますが、あれはピチカート・ファイブ(というか小西さん)が仕掛けた戦略であったことを考えると、何もしないで名作邦画に「サブカル女子」が群がる可能性は極めて低いと言わざるを得ないでしょう。

 では、いずれは邦画も仕掛けるとしてまずは洋画で考えてみます。(版権やプリントの所在の問題もあり、邦画に比べるとはるかにハードルが高いという現実は承知の上で、あえて話を進めることにします)

 『ひなぎく』を見ればわかるように、「サブカル女子」は「わかりやすい映画」よりも「映像的にはオシャレで明るさがあるが、やや難解でひねくれた映画」を好みます。アメリカならハリウッドではなくインディーズ系、それ以外なら(旧共産圏を含む)ヨーロッパの方が「オシャレ」度が高い。

 とすれば、ゴダールはありでしょう。『女は女である』『はなればなれに』などアンナ・カリーナ特集は引き込みをうまくすればいけるのでは、と思います。
 その他ヌーヴェルヴァーグは「ひねくれていて、やや難解」ですが「映像的にオシャレ」という意味ではなかなか厳しいかもしれません。それならジャック・ドゥミ(『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『ロバと王女』あたり)くらいがギリギリの線かと思います。
 ならばジャック・タチは「オシャレで、やや難解でひねくれている上に笑える」という好条件のように思えますが、ダメです。「ファッション・アイコンとしての主演女優」に欠けるからです。

 上記以外では『バーバレラ』なんかも(ちょっとおバカ的かもしれませんが、持って行き方次第では)クリアできるかもしれません。
 あとは旧共産圏ですね。良作で熱心なファンも多いチェコポーランドは作品次第では条件に適います。

 個人的には『尼僧ヨアンナ』の「黒い美しさ」は「オシャレでやや難解でひねくれていて女性が魅力的」だと思うので、現状は条件をクリアしていない(「明るさ」がまるでない!)でしょうが、ぜひ新しい感覚を「発見」して頂きたいところです。

 こういった中から「オシャレ映画女子向けの特集上映」を定期的に3、4本くらいで組んでみて、リピーターを増やしていくことができれば理想的です。(まずはスケジュールの確保が難しい場合はオールナイトという手もあるでしょう。既に某館では、やってましたが・・)


 2)どうやって伝えるか

 ここまででも充分ハードルが厳しいとは思いますが、ここまで何とかこれたとしても大きな問題があります。
 「周知宣伝の困難」です。

 これは推測ですが『ひなぎく』は女性誌等で扱われたことが動員につながったのだろうと思います。(実際のところ女性誌に載ったかどうかは確認していませんが、まず確実でしょう)
 そうすれば、一つのローカルな劇場の特集を女性誌に取り上げてもらう、など絶望的に難しいだろうと思います。お金ないし。

 キネプレさん? ・・うーん、それを見ているのは「あらかじめの映画好き」だけでしょう。

 結論から言うと、方法はひとつしかありません。「劇場が劇場で宣伝する」ということです。

 例えば、ひなぎく女子には『ひなぎく』を観に来たときに「ひなぎく的映画」を宣伝する(簡易チラシ手渡しで充分)のが最も効果的でしょう。
 「でも『ひなぎく』は終っちゃったよ」と思ったあなたはまだ甘い。
 彼女たちは必ずまた帰ってくるはずです。8月後半『ざくろの色』やパラジャーノフ映画を観るために!
 (※Nの場合。女性誌の扱いにより増減はあり得ますが・・)

 とにかく、「ひなぎく女子」は「ざくろ女子」または「パラジャーノフ女子」となってまた帰ってきます。だからそのときが勝負です。
 チラシ作りは普段と同じ作業なので手慣れたものでしょう。ここで、条件にあう作品選定、惹き付けることのできるキャッチコピー、秋頃に日程が確定したスケジュールが組めれば、また次回につなげることは充分可能だと思います。


 3)さらに次回につなげるために

 ミニシアターの会員(Nの場合、年間3000円)を「パラジャーノフ女子向け期間限定」で無料にする、という強引な案も考えてみましたが、「また来よう」と思わなかった人間を無理に会員にしたところであまり意味がありません。
 ここで重要なのは「定期的なスケジュールやチラシの発送」です。劇場に足を運ばなくても、今現在魅力的な作品がなかったとしても、定期的に情報を送付することで、「観たい映画の情報が観たい人に届く可能性」が高まります。

 従って、期間限定でも女子限定でも何でもいいので「スケジュール・チラシ送付会員(無料)」とかいうのを作って、「女子好みの特集や作品」の情報があるときに不定期でも「そそるチラシ」を送付するという作戦です。(ヴィジュアルが重視されるので、基本は文字のみのメールではダメです。読み飛ばされる危険性も高いと考えるべきでしょう。オーソドックスな「チラシ」や「フライヤー」はデジタル化著しい現在においては、「手にする」という状況さえ作ることが出来れば、むしろ訴求力が強い媒体だと言えます)

 基本的にスケジュールやチラシは女子用に作り直す訳ではありませんから、送付のタイミングだけ注意(極力定期送付にあわせる)すれば負担も(費用効果を考慮すると)そんなに大きくないのではないのでは、と思います。

 ただし、無料とはいえ「スケジュール・チラシ送付会員」に反応が薄いと判断されるのであれば、入会特典として「次回500円(財政厳しければ800円)に割引券」を1枚付けるぐらいのことはしても良いかもしれません。(あくまで割引券であり、招待券にしないことが肝要でしょう)



 4)作品選定の今後

 今回は便宜上「サブカル女子」としましたが、要するに「普段滅多に来ない若い女性客」のリピーターを増やすというのが本来の趣旨です。(女子が賑わえば勝手について来るので「男子」の考慮は後回し)
 ならば「若い女子向けの作品を上映する」「若い女子が観たい映画の情報を観たい人に伝える」ことが重要だというのがここまでのお話でした。

 ではその次なのですが、「若い女子の(自分では意識していなかった)観たい映画の掘り起こし」つまり「特定だけではない映画の様々な魅力に気づかせ、リピーターとなる」ことが当面の目標だろうと思います。映画女子の育成ですね。(最終的には育てた観客が勝手にどんどん友人等に広めていくようになることでしょう)

 これもまた難しい話ではありますが、例えば「女子向けプログラム」の中に「ちょっと毛色の違う魅力的な映画」を潜り込ませてみるというのは有効でしょう。「一見女子向け風だが実は・・」的映画なら言う事はありません。少し例を挙げてみると、

  『秋のソナタ』(「娘と母の確執をサスペンスフルに描いた傑作」として「女子向けサスペンス映画特集」にて)
  『狩人の夜』(「モノクロが美しいダーク・ファンタジー」として「女子向けファンタジー映画特集」にて)
  『ハネムーン・キラーズ』(「愛と狂気の新婚夫婦」として「女子向け結婚映画特集」にて)

  ちょっと極端かもしれませんが、映画女子のとしての資質を試す試金石としてはありなんじゃないかと思います。


 5)邦画の可能性

 映画女子を育てるには避けて通れないのが名作邦画です。国内に眠る莫大な宝庫に目を向けさせることが出来れば、プログラムの組みやすさは洋画の比ではないはず。
 現状では女性向け特集として「昭和の女優」にスポットを当てることが多いと思いますが、それでも実際劇場に足を運ぶのはシニア女性が多いでしょう。(まだシニア男性より多いだけ良いのかもしれませんが)
 やはりここは、サブカル的観点から新たに特集を組み、若い女性に受け入れられやすいキャッチをつけるべきだろうと思います。

 ・3〜5本程度の小特集。(大特集にしても観ないし選べない)
 ・若い女性にもかなり名前が知られている人物の最も輝いていた頃の特集。(例えば「美輪明宏特集」「加賀まりこ特集」「浅丘ルリ子特集」)
 ・映画ファンにはおなじみだが若い女性はあまり知らない「カッコいい女性」の特集(例えば「梶芽衣子特集」「藤純子特集」)
 ・今までスポットが当りにくかった視点での特集。(例えば「岸田今日子特集」「横山道代特集」)

 誘導が難しいかもしれませんが、持って行き方ひとつでは秘めたる可能性は大きいと思います。  


 6)補完イベントの実施

 たまたま「野球女子」の話を観ていて思ったのですが、やはり女子を盛り上げるには「女子会」をしなくてはならないでしょう。
 もちろんこれは流行で言っているのでありません。趣味にハマる大きな要素の一つは「一体感」であり、特に「一人で持って帰るには、やり場がなく、一人で消化するには経験に乏しい」若い映画女子にはそういう「場」が(特に最初の時期には)必要なのです。

 小特集上映が終った時刻を見計らって、近所のスイーツのおいしいカフェ、更には酒と肴の美味い飲み屋で映画の感想を言いあう女子会。
 ここでポイントは「批評会」とか「哲学カフェ」みたいなピリピリしたテイストは、敷居が高く、初心者向きではないということ。「女子であればだれでも気軽に好きなことを話せる場」であることが重要です。

 こういう企画というと、だいたい特集が仮に1週間だとすると、最初の土曜日に1回だけ実施とかが多いと思いますが、大阪在住監督傾向の「1週連続舞台挨拶」に倣って、大変だとは思いますが、できれば毎日やるべきだと思います。(『エデン』現象を思い出しましょう)

 毎日大変だと言っても、女性スタッフが1名、最初の進行だけうまく行えば、あとはするする進むのではないでしょうか。女子会ですし。
 うまくすれば、そういうことに秀でた観客や馴染みのリピーターの方に途中からおまかせすることも可能かもしれません(映画そのものも好きだけど、そういうのが楽しくて参加する人って必ず一人は出てくるものです)
 また、ちょっと会がマンネリになりそうだったら、飛び込みゲストで「仕事や趣味に関わらずちょっとだけそれらの映画に詳しい人(男女問わず)」を時々引きずり込んでみるというのも効果的だろうと思います。

 こういう特集上映(&女子会)を2ヶ月に1回くらいのペースでとりあえず1年くらいは続けていれば、若い女性観客のリピーターも少しずつでも増えてくるのではないか、と思っています。


 以上、観客目線のささやかな提案でした。もし少しでも参考になるような箇所があるようでしたら、それをたたき台にして、それぞれの劇場にあったやり方で「未来につながる映画女子」増加に向けてがんばって下さいませ。

 ミニシアターの将来が明るくなることを願ってやみません。

 (2014年7月2日)