彼が愛しているのは、その岩の固まりではないのです。
彼が愛しているのは、あの岩の固まりではありません。
彼が愛しているのは、誰も住んでいない「国土」と呼ばれる場所ではありません。
彼が愛しているのは、ただ自分自身です。
「国土を失うこと」を「自分の何かが奪われること」と思い込んでいるだけの人です。
「自分の何かを失うこと」が恐ろしくてたまらない人です。
彼は本当は、自分自身すら愛してはいません。
ただ「自分が自分でなくなること」が死ぬほど堪え難いと思っている人です。
彼は何も愛してなんていません。
彼はただ怖がっているだけの人です。
何かをやっていないと、何かを激しく責めていないと、自分が壊れそうになってしまう人です。
彼が愛しているのは、「同じ国の人」と呼ばれる人々ではありません。
彼が愛しているのは、同じ言葉を話し、同じ文化を持つ人々ではありません。
彼が愛しているのは、ただ「自分と同じ人」です。
自分と同じように、同じことに堪え難いと思っている人です。
彼が愛しているのは、自分と同じようにただ怖がっているだけの人です。
彼は本当は、「自分と同じ人」すら愛してはいません。
彼にとって「自分と同じ人」は、単なる自分が写った鏡です。
彼は何も愛してなんていません。
彼はただ、ひとりになるのを怖がっているだけの人です。
何かをやっていないと、誰かを激しく責めていないと、自分が壊れそうになってしまう人です。
(2013年2月17日)