あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

いま、迫ってくる映画『智恵子抄』

 シネ・ヌーヴォ田中登特集、またまた岩下志麻の主演作について。

 『智恵子抄』は、2年ぶり2回目の観賞。岩下志麻の狂気ぶりは、2回目でも充分衝撃的だが、丹波哲郎の愛妻ぶりも目を引く。あまり彼らしく(?)ない、非常に抑えた演技で、クセの多い役が多い彼にとっては、人間らしい共感を引くこの役は、今までみた中ではベストかもしれない。

 そして、1回目には何とも思わなかったのに、今回ハッとしたことがあった。

 「狂気の引き金になったのが、帰るべき故郷を失ったこと」で、そしてそれが「福島」だったということである。

 映画を観ている間、どうしても、いまの世の中には「帰るべき故郷を失って、精神的に参ってしまっている」人々がどんなにいることだろうと、思わずにはいられなかった。

 なぜ1回目に観たときにはそれについて何も思わなかったかというと理由がある。

 この映画を前回観たのが、前記『古都』を含めた特集上映、今は亡き「高槻セレクトシネマ」に初めて足を運んだ「純情可憐・岩下志麻」の上映、つまり、2011年2月のことだったからである。

 同じ映画(でも言葉でも概念でもいいのだが)は、時代によって少しずつ意味合いを変容していくものであるが、時に、ある時期を境にして、それが持つ意味や受け止め方を大きく変えてしまうことがある。この映画も、またひとつの事例になっていた。

 (2013年6月15日)

 ※DVD等は現在発売されていないようです。