あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

『古都』にみる「双子化の技術」

『古都』(中村登監督、岩下志麻主演、1963)はおそらく世界で最も有名な日本の双子映画ではないかと思う。秀作であることに異論はないが、気になる点がある。今回観たのが2回目なので今までに気がついたことについてここに書いておくことにする。

 日本における「一人二役」映画というのは、だいたいふたつの傾向がある。

 ひとつは、まったく区別ができないほど違いをみせない場合。これは「双子であること」(そして合成技術の妙を)強調すべく初期の映画やコメディタッチの作品に見られる傾向である。

 もうひとつは、一人二役を自然に見せようとするあまりできるだけ違いを強調する場合。典型的なのは服装や髪型である。
 (違った境遇に育ったために性格を極端に変えるというのもあるが今回は置いておくことにする)

 本作においては断然後者なのであるが、違いをみせるあまり、別人に近いほど雰囲気が全然似ていない感じになっていて、その徹底振りに驚かされる。

 初回観たときは「眉毛」だった。二人の眉毛の太さの違いは3倍もあろうかというほどの、「妹」のゲジゲジ眉毛だった。
 しかし今回改めて再見してみると、もっといろいろなところで違いがあることに具体的に気づいた。

 色の白さと小麦色の肌、というのはもちろん、顔全体が「姉」はすっきりとしているのに「妹」はまるっこい感じである。
 それどころかよく見ると、「姉」は鼻がすらっと長いのに、「妹」は何だか鼻が丸っこい感じでなのである。

 恐らく相当に計算されたメイクによる陰影の付け方の違いがそう見せているのだと思う。

 そして今回一番驚いたのが「首」である。よく見ると二人の首の長さが全然違う!!

 これは「妹」の着物の造りと着付け方だけではここまで違いは出ないだろう。それに加えて、たぶんやや猫背、そして少し首をすぼめて、わずかに前に出した姿勢を保っていながら演技をしているように思われる。
 (全てのシーンではないが、二人が街で出会ったときなど印象的な場面で強調される)
 そしてこれは、役どころ上、やや伏し目がちな顔つきが多いため全く不自然な感じにはなっていない。

 そういう訳で、この映画におけるメイクアップ技術にはなみなみならぬものがあった、ということである。
 (ちょうど50年前の、しかも有名な映画なので、こういうことは既にどこかで書かれているだろうとは思うが気になったのであえて書いた次第です)

 繰り返すが、本作が秀作であることに異論はない。そして、この双子の心理の違い、特にこれは「妹」側の「加害者意識」がこの物語の決定的な二人の亀裂点になっているところが非常に興味深い。原作の力によるところも大きいが、映像化に見事に成功していると思う。

 しかし個人的な所感としてあえて蛇足として言っておくならば、

 「(二人の違いを)何もそこまでしなくたって・・」

 というのが正直な印象であった。

 (2013年5月27日)



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