あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

愛はなかなか始まらない〜ビーチボーイズの場合〜

 先日、ここで、ビートルズにおける LOVE の研究(というほどのものでもないんですが、ちょっと考察)を行いました。
 (その記事はこちら。http://d.hatena.ne.jp/communicationbrakedown/20120904/1346771279

 それに対して、わがビーチボーイズ、LOVE を歌った曲は・・ないんじゃないの?なんで?というような声を頂きました。
 言われてみれば、確かにそうです。恋を歌った曲はありますが、愛そのものを歌った曲はほとんどないんじゃないでしょうか。
 実際ビーチボーイズのヒット曲では、タイトルに LOVE が含まれているものは、まず思い浮かびません。
 本当にそうなのか、イメージだけで意外と歌ったヒット曲・シングル曲もあるのでは。いやそれがなかったとしてもアルバム曲では結構あったりするんではないのか?
 そんな疑問が浮かびましたので、今回も、調査してみました。ビーチボーイズにおける LOVE の研究です。

 この考察では、ビートルズにおけるレノン=マッカートニーを重視したように、リーダーでありメインライターであったブライアン・ウィルソンを重視することとします。
 (よもやおられないとは思いますが、このタイトルから、ビーチボーイズにおける Mike Love の研究、という訳ではありません)
 また、音楽において愛が歌われることの多かった時代であり、ビーチボーイズにおける黄金時代であった60年代とそれ以降を分けて調査・考察してみたいと思います。60年代とはつまり、ほぼキャピトル時代です。

 ではまず、60年代シングル篇。

...Nothing!

 はい。調査の結果、曲のタイトルに LOVE が使われた曲は、A面B面ふくめ1曲もありませんでした。
 予想通りとはいえ、ここまでないと気持ちがいいですね。

 では次に、60年代アルバム篇。

Summer Days (And Summer Nights!!) 1965
"Summer Means New Love" ( B.Wilson)

Beach Boy's Party! 1965
"You've Got to Hide Your Love Away" (Lennon-McCetnry)

20/20 1969
"Never Learn Not to Love"(D.Wilson)

 3曲ありました。1曲はビートルズのカバー、もう1曲はデニスの曲です。ブライアンの曲が1曲あるじゃないか!!と思わず身を乗り出してしまいそうになりますが、残念ながらこの曲はインストゥルメンタル。LOVE は声を出して歌われておりません。

 では次は、70年代以降のシングル篇。

1976 "Everyone's in Love with You" (M.Love)
1985 "She Believes in Love Again" (B.Johnston)
1992 "Summer of Love" (Love/T.Melcher)

 3曲ありました。約43年で3曲です。70年代、80年代、90年代で各1曲。ブライアンの曲は全くありません。

 では、次にアルバム篇。

15 Big Ones 1976
"Chapel of Love" (Jeff Barry/Ellie Greenwich/Phil Spector)
"Everyone's in Love with You" (Love)

M.I.U Album 1978
"Sweet Sunday Kinda Love" (B.Wilson/Love)
"Match Point of Our Love" (B.Wilson/Love)

L.A.(Light Album) 1979
"Love Surrounds Me" (D.Wilson/Cushing-Murray)

Keepin' the Summer Alive 1980
"Some of Your Love" (B.Wilson/Love)

The Beach Boys 1985
"Crack at Your Love" (B.Wilson/A.Jardine)
'"She Believes in Love Again" (B.Johnston)
"I Do Love You" (S.Wonder)

Summer in Paradise 1992
'"Sumber of Love" (Love/T.Melcher)

 おお!10曲もあります。でも3曲はシングル曲と重複しているので、実質7曲。そのうちカバーが2曲なので、オリジナルは5曲となります。
 その5曲の構成は以下の通り。

 B.Wilson/Love名義 3曲
 B.Wilson/Al Jardine名義 1曲
 D.Wilson/Cushing-Murray名義 1曲

 問題はブライアンの共作となっている4曲です。マイク・ラヴとの3曲は1978年と1980年、アルとの1曲は1985年です。
 これはブライアンがまだ復活していない時期で、楽曲はともかく歌詞までブライアンが書いているのかは疑問があります。
 確実に言えることは、ブライアン単独で書いた曲においては、タイトルに LOVE が入った曲は、インスト曲の1曲しかない、ということです。つまり歌詞のある曲においては、1曲もないのです。

 <結び>

 60年代の曲において、サーフィン、ドライヴ、女の子についてブライアンは多数の曲を書いています。「サーファー・ガール」「カリフォルニア・ガール」「キャロラン・ノー」など名曲も多い。恋について歌った曲もいくつもあります。
 しかしながらこれは「愛」ではなく「恋」です。淡いあこがれ、相手への思い、それは「自分の頭の中にあるだけ」のものです。「相互に相手との関係を持つ」必要がある「愛」ではありません。
 ブライアンは、泳げもしないのにサーフィンソングを作る、音楽だけが取り柄のシャイな若者でした。父親との関係などもあり、あまり他者とのコミュニケーションもうまい方だったとは言えないでしょう。だから彼はうまく表現できない自分の思いを音楽で表現することで昇華しました。しかし彼には「愛」はあまりにも重すぎたのです。それが彼の曲に恋が描かれても愛が描かれなかった理由だと考えられます。

 「でも、彼は結婚してるじゃないか。子供までいるじゃないか。恋愛してるだろう」と思われる方もおられるかもしれません。
 しかしながら、実態としての彼はどうあれ、ヒットを飛ばす人気グループの「セレブ」には、自分からは何もしなくても異性がよってきて何でもしてくれたのではないでしょうか。だから彼が結婚したからといって必ずしも歌にできるような恋愛をしたとは限らないと思います。
 彼の当時の精神状態からいっても、恋愛があったとして、それは妻の側からのものがほとんどではなかったのではないでしょうか。

 本当のところはわかりません。本当ならば全曲の歌詞をすべてチェックすれば、もう少し見えてくるのかもしれませんが、そこまでするのは時間がかかりすぎるので、これはあくまで「仮説」として、今回の考察は終えることにします。

 書いていて、何だかブライアンがちょっと可哀想にも思えてきました。いやでも、かつてどんなに苦労していても今が幸せならそれでいいじゃないか、素敵じゃないか、とも思ったりするのでした。

 <余談>

 そうそう、大事なことを書き忘れていました。ブライアンのソロ活動の話。

 実質的にブライアンのソロアルバムだった問題作『ペット・サウンズ』からシングルカットされた「キャロラン・ノー」が、なぜかビーチボーイズ名義ではなくブライアン・ウィルソン名義だったとか、70年代後半、ソロアルバムを作成したが、お蔵入りになったとか、いろいろありますが、彼の公式的な最初のソロアルバムは『ブライアン・ウィルソン』(1988)であるのはファンの方ならご存知の通り。

 問題は、そこからのシングル曲が、ブライアン抜きのビーチボーイズのシングルと同じ月に発売になり、ビーチボーイズの"Kokomo"は誰も予想しなかった22年ぶりのチャート1位に輝き、ブライアンのシングルはあえなく(チャート的にという意味で)敗れ去った、という有名なエピソードがありますが、そう、その曲こそ、あの名曲 "Love and Mercy"、そしてブライアンが初めて LOVE を歌った曲であったのでした。

 (2012年9月13日)



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