古典という革新
今日は光文社古典新訳文庫の新刊が3冊刊行されました。
今月でこの叢書が創刊してちょうど6年です。
2006年9月、12冊を一挙に刊行して華々しく創刊したこの文庫でしたが、それを書店でみたときこう思いました。
「いい企画だけど、売れないから、もって2〜3年というところだろう」
当時は「古典は売れない」「翻訳は売れない」「新訳は売りにならない」というのがごく一般的な感覚だったと思います。
そういう意味で、当時としては「古典」をウリとする専門文庫を創刊し、刊行し続ける、ということは革新的でした。
ところが、翌年以降のレイモンド・チャンドラーの村上春樹による新訳のヒットもあり、「新訳」に注目が集まりはじめます。
また時代が混迷すると古典が見直されます。翻訳は相変わらず低調ですが、作品によっては手堅く売れる、少ないながらも固定層がつきはじめる、といった現象がこの6年の間にみられました。
現在でも毎月2冊(ときどき1冊)が刊行され続けています。
この叢書の魅力は、統一したシンプルで味のあるデザイン、読みやすい文字組、充実した解説と年譜、そして何よりも古典中の古典とあまり知られていない作品の絶妙なラインナップとそれに対する的確な訳者の配置、だろうと思います。
当時、光文社、というブランド名にもあまり信頼が置けなかったこともありますが、これは、おそらく少数の信念を持った編集者の先見の明と努力の賜物であったのだろうと思います。光文社さん、見くびっていてごめんなさい。
でも「これは売れないし続かないけど、いい文庫だから、いまのうちに全部買っておこう」と思って最初の12冊を買い、それがいまだに毎月続いている自分の目利きも、そう悪いものではないと思ったりもします。ですよね、光文社さん。
(2012年9月12日)