あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

フィルムは本当にお別れしなければいけない相手か?

 山田洋次の大々的な特集上映のサブタイトルというかコピーに「フィルムよ、さらば」とあるのが気になっています。

 つけた側としては、映画ファン以外にはあまり知られていないと思われる「フィルム時代の終わり」をわかりやすく、かつやや扇情的に表現したのだろうと思いますが、これはフィルムへの引導、はっきり言えば死刑宣告に聞こえて仕方がありません。

 普段映画を観に行かないような人がこれを見て「ああ、フィルムはもう古い文化だから終わるんだ。これからはぜんぶデジタルの時代になるんだね」と思うかもしれません。
 いやいや、これはちょっと危ない誤解を招きかねないと思います。

 1)新作については今後すべてデジタル化の方向と言われていますが、これは基本的に「ハリウッドの映画配給会社の都合」で進んでおり、世界各国の何もかもが一斉にそうなる訳ではない。ましてやハリウッドにおいてさえも、一部の監督などの製作側の意向(抵抗と思っていいと思います)で、ほぼデジタルで配給されるのにも関わらずいまだにフィルムで映画を製作している監督が何人もいます。

 2)旧作についてはフィルムでの膨大な資産があり、今まで作られた映画の総数の比率ではほとんどがフィルムです。映写機がある限りフィルムはこれからも上映され続けることでしょう。デジタルアーカイブ化という話もありますが、規格の問題もあり、現時点ではほとんど進んではいません。

 特にこの2において、フィルムに永遠の別れをつげるのにはまだまだ早い、と思います。今後も巨匠や俳優の名作懐古上映は続けられる(というより、再評価・再発見が進む近年においてはますます増えるであろう)と思います。

 この現実において、何とかフィルムでの上映を続けるために多くの方々が努力しているという状況がありながら、このコピーは、それをバッサリ切り捨ててしまっているように感じます。(「ハイ!終わり」という思考停止の誘発)

 別にデジタルの可能性は否定しませんし、いいところも悪いところもあるでしょうから、今後はいいところをのばしてほしいと思います。

 でもフィルムはまだ死んではいません。プリントするフィルムの確保や映写機のメンテナンスの問題は深刻ですが、それでもフィルムによる名作上映は熱心な映画ファンにとどまらず、今後も望まれていくだろうと思います。

 (2012年10月4日)