あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

ターセムと石岡瑛子の最新作『白雪姫と鏡の女王』

 ターセム・シン(あるいはターセム)は現代においてもっとも美しい映像を魅せる監督だと思う。
 『落下の王国』(The Fall,2006)は、商業映画の作りの域を超えた、奇蹟の傑作だと思っている。

 昨年の『インモータルズ 神々の戦い』(Immortals,2011)に続く『白雪姫と鏡の女王』(Mirror Mirror,2012)は彼の4作目の監督作であり、同時に石岡瑛子との4度目のコラボ作品でもある。(今回はターセム・シン・ダンドワール監督名義となっている)

 お話の内容としては、『白雪姫』をコミカルかつ現代風にアレンジした小気味よい佳作となっている。
 しかし目玉はやはりターセム異世界のヴィジュアルデザイン、そして石岡瑛子の衣装美術のふたつに尽きるといっていい。

 このコンビは1作毎に異なるジャンルの映画をつくってきたが、前作のダークでスパルタンな「ギリシャ神話」を扱った作品から、今作はキュートでロマンティックな「童話」に180度反転したかのようにみえる。しかし「(欧米の白人にとって)子供の頃から慣れ親しんだ物語」という意味では共通している。

 兵士の仮面や、7人の小人の背が伸びる仕掛け、住処のデザインなどのターセムの造形も魅力だが、今回は舞踏会のシーンなどがあるため、石岡瑛子の衣装における華やかな魅力が存分に発揮された作品となっている。

 そしてエンドロールの最初にこの言葉が現れる。 "To Lovely Memories of Eiko Ishioka"
 本作は、今年の1月に亡くなった石岡瑛子の遺作であった。
 ターセムの映画における衣装美術はすべて石岡瑛子の手によるものである。これが彼女の作品を観る最後の機会だと思うと非常に残念でならない。

 そして今、大きな不安がある。
 はたして、石岡瑛子というパートナーを失って、今後ターセムは今までの魅力を失わずに監督作品を作り続けることができるのか?
 それがとても心配でならない。

 もう今までの水準の作品を観ることはできないかもしれない。それでも今後のターセムがどうなっていくのか、彼の活動を見守っていきたい。強くそう思う。

 最後に。石岡瑛子さん、今まで素晴らしい作品をありがとうございました。

 (2012年9月29日)



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