あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

あの発言について、もう一度考える

 8月29日に書いた、あの発言について、もう一度考えてみる。
 (8月29日の文章はこちら:
http://d.hatena.ne.jp/communicationbrakedown/20120829/1346252758

 昨日9月7日に、「池谷発言」について、その続報があった。

放射能発言「誠に遺憾」 池谷・生態系協会長(朝日新聞WEB 2012/9/7)

 公益財団法人・日本生態系協会の池谷奉文会長は7日、東京電力福島第一原発事故の影響に関する講演での自らの発言について「誤解を生じさせる表現があり、誠に遺憾に思う」として、抗議していた福島市議らに説明文を送ったことを明らかにした。

 池谷氏は地方議員らが参加した7月の講演で、「放射能雲が通った地域の人々は結婚しない方がいい。結婚して子どもを産むと奇形発生率が上がる」と発言。参加者の福島市議4人が「差別発言だ」と、訂正を求めていた。

 市議に送った文書で池谷氏は「真意は、放射性物質は福島のみならず広域的で、チェルノブイリ事故後の被曝(ひばく)の遺伝子損傷事例による影響懸念を受け止め、東電や政府に対応を働きかけていくことが大切というもの」と説明。その上で「差別の意図はなかったが、大きな誤解が生じ、(福島)県民感情を悪化させた。今後発言に十分注意します」としている。

 放射能の影響により、障害を持った子供が産まれる可能性があるというのは本当である。
 今さらこの人物に言われなくてもご存知の方も多いだろう。
 チェルノブイリの事故では、ずいぶん後になって、心臓疾患や手足の欠損など障害を持った子供が続々と産まれている。
 しかもチェルノブイリのあるウクライナよりも風下にあった周辺国に多いとも言われている。
 昨年日本で公開された映画『チェルノブイリ・ハート』をご覧になった方も多いと思う。これは2003年の映画であった。

 8月29日の記事では、池谷氏は以下の発言をしたとされている。

 「福島の人とは結婚しない方がいい」
 「福島では発がん率が上がり、奇形児が生まれる懸念がある」
 「放射能雲の通った地域にいた方々は極力結婚しない方がいいだろう」
 「結婚して子どもを産むと、奇形発生率がドーンと上がる」

 彼が本当にこの通りの言葉を口にしたのならば、彼の一番の問題は、自分の発言の問題点にまったく無自覚だということである。

 上記の発言からわかる事は、以下の3つのことだ。

 (1)「障害児が産まれる可能性がある=子供を産んではいけない=そういう子供を産む人と結婚してはいけない」と思っている。

 (2)「障害児」でなく「奇形児」と言っていることでわかるように、彼は障害児を「ふつうの人間ではない」つまり「人間ではない」と思っている。

 (3)「奇形発生率がドーンと」という表現でわかるように、彼は対象となる(と彼が思っている)福島や隣県の人々を「自分はよく知らない、どこかよその人」だと思っている。要するに「他人事」だということだ。

 よって問題点は、以下のようになる。

 (1)障害児が産まれる可能性があるからと言って、産む産まないを第三者が決めつけることの傲慢さ。(障害児が産まれてもそれを受け入れる覚悟があるのなら、産むことを決めるのは当事者夫婦以外にはあり得ない)
 ましてや、結婚の自由に対して第三者が口をはさむ権利など微塵もない。

 (2)「奇形人間」と呼んで「普通の人間」から切り離して終わり、という発想の貧困さ。障害を持って現実に今を生きている人々に対するこのうえない侮辱。

 (3)場所は明確ではないが、彼はおそらく「問題のない地域」に行って「問題のある地域」を(断種によって)切り離すべきだと語っている。本来そういう情報を持った人間がするべきことは、「問題のある地域」に行って、こういう現実があるが問題を少しでも良い方に持っていくように一緒に考えましょう、と語るべきではなかったか。

 (もっとも9月7日の言い訳をみる限り、彼にはそんなことができるとはとても思えない。この言い訳で彼は「東電や政府に対応を働きかけていくことが大切」と言っているが、彼の言う「対応」とは「子供を産ませない、結婚させない」という断種キャンペーンのことに他ならないからである)

 この人物が無意識に持つ差別意識はあまりにも深い。そして、この人物に著しく欠けているのは、問題を抱える他者に対する共感である。果たして彼が福島出身であったならば、全く同じ言動を行っただろうか?もし同じだと言うならば、彼は冷酷極まる人物であると言わざるを得ないだろう。


 (2012年9月8日)