あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

『ヘルタースケルター』の色彩設計

 『ヘルタースケルター』を観た。

 Twitterでも少し触れたが、この映画に惹かれたのは、たぶんに「楳図かずおのエッセンス」が感じられたからである。
 手術による美少女の誕生、破滅への恐怖、錯乱、犯罪、幻覚、狂気といったものが、極彩色とも言えるカラフルな映像におそろしくマッチする。

 ※ここからはあらすじ、結末に触れる可能性があるので注意頂きたい。

 物語そのものは、「芸能界でスターダムにのし上がった整形美女が、整形手術の副作用から顔や身体が崩れて行く恐怖のためにおかしくなっていく」という構造である。

 「整形した美女」というのはかなり昔からいわれる一種の都市伝説に近いものであり、この物語においては、それを極めて極端な形で表現したものである。

 誤解をしないで頂きたいのは、「芸能人の整形」がない、と言っている訳ではない。部分的な整形はいくらでもある話だろうと思うが、この作品で表現されるような「全身まるごと別人のように生まれ変わるような整形(もうこれは整形というよりは改造という方が近いだろう)」というのが現実的には相当困難だろう、という意味である。

 少し前に公開された『私の、生きる肌』を思い出した方も多いと思う。(あとは「アソコ」だけの違いである)

 さて、ご覧になった方はお気づきになったかと思うが、この作品の色彩設計は大きく分けたふたつの世界においては、かなり異なっている。

 つまり、芸能界という<異界>において、りりこが存在するスターダムの世界は、赤を基調としたポップカラーで統一されている。
 一方、芸能界とは離れた一般の世界<現実界>においては、黒を基調とした非常に沈んだ感じのモノトーンに近い色彩で統一されている。

 このふたつの色の使い分けは、芸能界という<異界>が現実の世界からみるといかに際立っているかを効果的に表現している。(そのために<現実界>の何人かの人物は喪服かと思えるような黒のスーツをずっと着通していたりする)

 また、この物語は、「ふたつの世界の適度に保ち続けていた調和が崩れて行くプロセスを追った物語」と読むことができる。

 <現実界>と<異界>は、通常交わることはない。また過度に影響しあうこともない。ふつうは、<現実界>の少女が<異界>にスカウトされデビューする。<異界>で光り輝く存在になると<現実界>の平凡な少女のファッションが影響を受ける。そんな程度である。

 この物語においては、<異界>と<現実界>の境目に、境界というべき存在がある。マネージャーの羽田は<異界>にいながら<現実界>そのものの存在。普段の服装は極めて地味な黒のモノトーンであったことに着目したい。

 破滅の不安を抱きはじめたりりこは、羽田をおもちゃにするが、そこで彼女が羽田に贈ったものがある。それが「赤(=ルージュ)」。
 これが、以降、<異界>から<現実界>への干渉の契機となる象徴的なシーンであった。

 以後、りりこは羽田(やその彼氏)を使い、<現実界>での出来事をコントロールしようとする。自分の思い通りに世界を動かそうとするりりこ。

 しかし結局はこれがきっかけとなって、検事という<現実界>の象徴的な存在に逆に支配される結果となってしまう。

 この物語は、芸能界という異界のスターダムに駆け上がった女が、現実界と異界との裂け目を自ら作ってしまった結果、彼女の中で、異界と現実界が崩れだし、その結果精神的に追い込まれて破滅する、という物語であったということを、この作品の色彩設計は語っているように思えるのである。

 

ヘルタースケルター (Feelコミックス)
原作。未読なので読まなきゃ。


ユリイカ2012年7月号 特集=蜷川実花 映画『ヘルタースケルター』の世界
こちらは、注文済み。


増補新版 岡崎京子 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)
買いました。