あたまのなか研究室

ピクルス(2代目)とぶらいあん(初代)の研究室です。

iPhoneにみる、普及プロセス三段階

 若い女性が持っているとオシャレでカッコよく見えるのに、若い男性が持っているとほとんどマニアかオタクにしか見えないという不思議な存在があります。例えば一眼レフ、はその典型でしょう。

 では、iPhoneの場合はどうでしょうか。

 それを考えてみるには、iPhoneがどのように普及していったかを振り返ってみる必要があります。
 以下は、当研究室による長期的観察調査の報告によるものです。

 日本においてiPhoneは、2008年7月に初めて発売されました。iPhone3Gです。このときは新しいモノ好きなガジェット愛好者をのぞくと、大半はマニアであったと思われます。
 この時期に観察されたiPhone保持者は、若くてやせ気味の、理系っぽい雰囲気が漂う男性が圧倒的でした。

 ところが、次のモデルiPhone3GS(2009年6月〜2010年6月)になってから様子が変わって来ます。若い女性が急激に増えてきたのです。観察報告によると、若い女性の中でもファッションに気を使う層であることが顕著であり、未確認ですがおそらくこの時期に、若い女性向けファッション雑誌において、大々的なiPhone特集が組まれたことは間違いないでしょう。

 そして次のモデル、iPhone4(2010年6月〜)になってからは、高校生から主婦、ガテン系からシニア手前まで、それ以前なら想像もできなかった、老若男女問わずあらゆる層に普及していきました。
 この時期に日本においてiPhoneの普及は完了したと言えるでしょう。
 面白いのは、この時期になると、マニア層に変化が見られたことです。iPhone保持者よりも、当時頭角を現しつつあったAndroid端末保持者が目立ち始めたのです。特にXperiaが顕著に見られました。

 今ではiPhoneを持っているとことは珍しくも何ともありませんが、既におわかりの通り、iPhoneが爆発的な普及を果たした契機となったのは、若い女性への訴求に成功したからでした。
 (ただしアップルが、主体的にこれに関与したかというと疑問があります。推測ですが、女性誌側の方が積極的にキャンペーンを行ったのでは、と見ています)

 それまで「マニア好みのアイテムという認知」から「オシャレな若い女性も好むアイテムという認知」へ大きくパラダイムシフトしたのです。これにより街にiPhoneを持ったオシャレな女性が闊歩し、その結果あらゆる層に受け入れられることとなったのです。

 では当初、機能と性能と目新しさでマニアのハートをつかんだiPhoneが、どうしてオシャレな女性に受け入れられることができたのでしょうか。

 ファッションが何よりも優先されるような女性においては、細かい機能の違いや他の機種と比較して性能がどれだけ向上しているかだとかは、全く眼中にありません。そこそこ使いやすくてデザインが良いこと、持っているとカッコよくオシャレに見えること。つまり彼女達にとってiPhoneは、可愛い服やバッグと同じくファッションブランドでありえたからです。

 ここで最初の問いかけに戻ると、第一ステップにおいてはiPhoneは男性のマニアアイテム、第二ステップにおいては女性のオシャレアイテム、第三ステップにおいてはオシャレっぽさを少し残しつつも誰でも持ってるややありふれたアイテムというのがそれぞれの時期における認知です。

 いま現在においても、ファッション雑誌を意識したような若い女性が手に持って歩いているのはほぼiPhoneです。今となっては彼女達がiPhone以外の機種を選ぶということは、何らかの事情がない限り、相当に勇気の要ることなのかもしれません。

 「マニアとオシャレな若い女性」という相反するかのような存在は、iPhoneに限らず新しい何かを普及させるためには極めて重要となる人々です。今後も彼らがどのように行動していくのか、研究室は静かに見守っていきたいと思います。

 (2012年10月11日)